岡本太郎の『日本の伝統』は、岡本太郎の最も有名な著作『今日の芸術』(1954)で語られたことの発展として書かれた。岡本太郎の『今日の芸術』と言えば、「芸術は美しくあってはならない。心地良くあってはならない。整っていてはならない。」の芸術三原則で有名だ。さて、この日本の伝統では、伝統主義者に対する太郎の戦いが見られる。私はこれまで、「国立ハンセン病の記録と継承」を主なテーマとして扱っていたが、この本から得たことは大きい。伝統や継承において、肝心なのは見られる側ではなく、我々側なのだ。つまり、見る側こそが、大事だ。
では、伝統とは何か。太郎は「伝統とは創造である」と語る。伝統とは、結局のところ、現在を生きる我々のものなのだ。岡本太郎は、そのことを強く自覚しており、「私は逆に現在のこれっぽっちのために、過去の全部を否定してもかまわない(省略)この生身の人間なしにいかなる古典も伝統もへったくれもありはしない。」と語る。彼はここから縄文土器論、さらには光琳、庭園論に発展していく。縄文土器を日本の美として最初に捉え直したことで、太郎は有名だが、本書のメインはおおよそ、庭園論にあると考えられる。
何れにせよ、彼の本書での一貫した主張は、伝統とは、寄り掛かる存在ではなく、寧ろ超えゆく存在だと言える。伝統は、守るのではなく、常に挑まなければならない。つまり、伝統を過去の遺物として扱うのではなく、現在の問題として捉え直すことが重要である。そのためなら、岡本太郎は過去を全て否定しても構わないと語る。大切なのは、過去の遺産や、歴史側ではなく、それらに対してどうアクションを起こすかである。この岡本太郎の伝統論は、「国立ハンセン病療養所の記録と継承」においても、通ずる。つまり、これらの「国立ハンセン病療養所の記録と継承」も、過去として扱うのではなく、現時点で進行し続けてる問題でもあると考えるべきだ。また、事実、ハンセン病問題の課題は現在も、残されている。見る側の我々はこれらとどう挑み、創造していくか!
岡本 太郎
『日本の伝統』
光文社 2005
カバー装画:鈴木成一デザイン室
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