本書を手に取ったきっかけは、YouTubeで現在アップロードされた「村上 隆 アーティストトーク MY WORK【森美術館 ラーニングONLNE】」を見たことだった。この動画は村上 隆さんの人生から森美術館との関係性が見えてくる動画だ。彼は動画で資本主義経済型芸術と自分の作品を説明しており、経済とアートの関係性の絶妙な面白さと村上作品に対する見方をよく理解させてくれる。
さて本書の重要な指摘の部分だが、結局「アートと経済は共犯関係にある」ということを理解しなければ、ならないということだろう。しかし「美術は市場を抜きにしては語れなくなっている」ということを理解する美大生は、本当に少ない。この本は美大生にこそ、勧めたい。
『芸術起業論』を読んで、3つの衝撃があった。
1つ目に「モノを伝えることは、娯楽と割り切る」という指摘だ。この考え方自体も、アートは商品であるという前提で考えれば、当然のことだ。しかし、私が近年見る美大生の作品はマスターベーションのようなものばかりで、これはまさに、アートの経済性を全く理解できていない結果なのではと考えざるを得ない。だが、私自身も作品のテーマに相手を置いてきぼりにする節が多いので、たくさんの入り口を用意するということは意識して製作をしたい。
二つ目は「価値を生むのは、才能よりサブタイトル」ということ。自己ブランディングの重要なポイントだろう。現代アートにおいて、世界基準の文脈がなければ、話にはならない。サッカーの試合をバスケのルールでしてもナンセンスなだけなように、アートにもルールが存在する。それを文脈と呼ぶ。そしてここの指摘では、では自己の作品をどう文脈と結びつけるかにおける、適切な回答を示している。
三つ目は、「芸術家の成長には怒りが不可欠である」ということだ。これは、考えてみれば、周りのつまらない美大生に共通して言えることだが、怒りがないのだ。結構みんな幸せなフリをするのが上手で、思えば怒りを剥き出しにして、作品制作をしていたのは、学生時代僕ぐらいだったのではと、思うほどである。怒りは必要だ。
以上、3点が私がこの本から得た重要な教えであった。これ以外にも大変勉強になることが多い。アートを生業にする人は必読間違いなし。
村上 隆
『芸術起業論』
幻冬社 2006
装幀:鈴木成一デザイン室
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