岡本太郎は、職業は何ですか?とインタビューを受けたときに「人間だ。」と答えたことは岡本太郎の芸術観をよく表す一言だ。芸術=人間ということを考えたときに、愛は人間にとって欠かせない。人間が、世界に打ちのめされても、尚、生きていけるのは愛する人がいるからだ、と言っても過言ではない。そして、それは恋人だけを指すわけではないだろう。友人、恋人、家族様々にも当てはまるはずだ。しかし、他者を愛するということの持続性について、実は、私たちは、ちゃんと理解してないということを本書は教えてくれる。愛もまた、学ぶべき対象であることをこの本は訴える。
本書のサブタイトルにある、「男は火星から、女は金星からやってきた」というメッセージは、男と女だけに私は当て嵌まらないと考える。私からすれば、同性の他者も、また違う星の人間だ。自己と他者の関係性も細かく見れば、違う文化、環境で生きてきた全く異なる星の住民とも言える。そういったことから、生まれる誤解や問題を本書は丁寧に解説し、自己と他者という複雑かつ魅力的な存在の架け橋となってくれる。
考えてみれば、日本の教育の中に情操教育はあっても、恋愛の教育はない。大体は愛するということは、親の見様見真似で、覚えていくのだろう。だが、男女格差やジェンダーが新しい形で現れ始めた今は、従来の恋愛の形だけで克服出来ない問題が多く見られる。ならば、私たちは、愛するということについて、学び直すべきだ。
本書は、ハウツー本の装いをしているが、その本質は愛することを持続させることについての考察にある。本書の訳を映画監督の大島渚が行なっている部分からもこの本が、俗的な愛だけについて語るものだけではないことを示している。愛は学ばなければわからない、もしくは持続が大変難しいということを、理解出来れば本書の重要性が、人間生活の営みそのものに響いてくる。本書の後半に「私たちが何か新しいことを習得するには、同じことを二百回繰り返して聞く必要がある」と書かれている。これから何百回と、本書を読んでいきたいと思う。
ジョン・グレイ
『ベスト・パートナーになるために 男は火星から、女は金星からやってきた』
大島 渚 訳
三笠書房 2013
カバーデザイン:三笠書房装幀室
Comments